【左官と建築の繋がり】西本願寺と左官の関係とは? 国宝建築を支える土壁の技術と歴史を解説

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皆さんこんにちは。

東京都調布市を中心に、全国各地にて一般左官・特殊左官を軸に建築工事一式を幅広く行っている株式会社ワイズファクトリーです。


西本願寺といえば、京都を代表する世界遺産の一つです。国宝の御影堂は江戸時代の建築として現存最大級の規模を誇り、その壮大な屋根や木組みに圧倒される方も多いのではないでしょうか。ただ、この巨大な建物の美しさや耐久性を語るとき、「壁」の存在を無視することはできません


西本願寺の壁を支えているのは、1300年以上の歴史を持つ日本の左官技術です。


この記事では、西本願寺の歴史を押さえたうえで、なぜこの建物に左官技術が欠かせないのか、どんな材料が使われているのか、そして10年がかりの大修復で何が明らかになったのかを、詳しく解説していきます。



伝統左官を、現代に届ける

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■西本願寺とはどんな建物か?

まずは、西本願寺がどんな歴史を歩んできた建物なのかを見ていきましょう。


西本願寺の始まりは、1272年(文永9年)にさかのぼります。浄土真宗の宗祖である親鸞聖人が亡くなったあと、末娘の覚信尼が京都の東山大谷に小さな廟堂を建て、聖人の遺骨と影像を安置しました。これが、のちに「本願寺」と呼ばれる寺院の原点です。


その後、寺の場所は時代の波に翻弄されるように何度も移転を繰り返しました。大阪、和歌山、そして再び京都へ。現在の場所に落ち着いたのは、1591年(天正19年)のことです。


1602年には本願寺が東西に分かれ、堀川六条の本願寺は「西本願寺」と呼ばれるようになります。現在の御影堂が再建されたのは1636年(寛永13年)。以来、幾度もの修理を経ながら、約400年にわたって「祈りの場」として使われ続けています


これだけの規模と歴史を持つ木造建築が、繰り返しの修理と維持管理によって今なお現役であること。その背景には、建物全体を覆う「壁」の存在があります。


では、西本願寺の壁には、どんな役割があるのでしょうか。


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■なぜ西本願寺に左官技術が欠かせないのか

「左官」と聞くと、壁をきれいに塗る仕事というイメージを持つ方が多いかもしれません。もちろんそれも大事な役割ですが、西本願寺のような巨大建築では、壁はもっと根本的な部分から建物を支えています。



・約11万5千枚の瓦がのる大屋根と、壁の役割

西本願寺御影堂の屋根には、約11万5千枚の瓦が葺かれています。葺き土も含めた屋根全体の重量は約1,470トンにも達します。


これだけの質量が常に建物にのしかかっている環境のなかで、土壁は建物の耐力要素の一つとして、耐震性や空間全体の安定性に関わっています


つまり、左官が塗る壁は「見た目を仕上げるためのもの」というだけではなく、建物の構造的な安全にも寄与する存在なのです。



・耐火・調湿・格式の可視化――壁が果たす3つの機能

土壁の役割は、構造だけにとどまりません。大きく分けると3つの機能があります。


耐火性能

木造建築にとって火災は最大の脅威ですが、土壁は不燃材料に相当する性能が確認されており、建物を火から守る「盾」のような存在です。


調湿機能

土壁は、湿度が高いときには空気中の水分を吸い込み、乾燥しているときにはそれを放出する調湿機能があるとされています。高温多湿な京都の気候のなかで、堂内の空間を快適に保つうえで重要な役割を果たしています。


格式の可視化

壁面の仕上げや意匠は、その建物の社会的・宗教的な格式を表現するものでもあります。西本願寺のような寺院では、壁の質感や色味が空間全体の品格を左右します。


この3つが重なり合うことで、西本願寺は数百年にわたって「祈りの場」としての品格を保ち続けてきました。



・屋根と壁は互いを守り合っている

ただし、土壁には一つ大きな弱点があります。

水に弱い、ということです。


雨に直接さらされ続ければ、どんなに丁寧に塗った壁もいずれ崩れてしまいます。それを防いでいるのが、屋根の下に隠された精緻な構造です。


西本願寺御影堂の屋根では、瓦のさらに下に約28万枚もの「こけら板」が敷き詰められています。使われているのは樹齢250年から300年のサワラ材で、厚さはわずか約3ミリメートル。この薄い板を何十万枚も重ね、瓦と合わせた二重の防水構造を作ることで、土壁を雨水から守っているのです。


つまり、屋根は壁を雨から守り、壁は建物を火や構造面から守っている。どちらか一方だけでは成り立たない、互いの弱点を補い合う一体のシステムです。


屋根の下に土壁が安心して存在できる環境があって、はじめて左官技術は力を発揮できる。逆に言えば、左官の仕事を理解するには、壁の表面だけでなく、建物全体の構造にまで目を向ける必要があるということです。


では、これだけ重要な役割を担う壁には、どんな材料が使われているのでしょうか。


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■京都の歴史的寺院を支えてきた「土」の種類と特徴

西本願寺をはじめとする京都の歴史的寺院では、壁に使われる土が一種類ではありません。部位ごと、格式ごとに異なる種類の土が、緻密に使い分けられてきました。


ここでは、京都の寺院建築で伝統的に用いられてきた代表的な壁土を紹介します。



・最高級の壁土として知られる本聚楽土(ほんじゅらくつち)

京都には、260年以上にわたって壁土の製造を専門に担い続けている業者が存在します。江戸時代から宮内庁御用の指定を受け、京都御所をはじめとする歴史的建造物に材料を供給してきた、土づくりの専門家です。


そのなかでも、左官職人の間で最高級の壁土として広く知られているのが「本聚楽土(ほんじゅらくつち)」です。


この土は、豊臣秀吉が築いた聚楽第の周辺にあった、限られた鉱脈から産出されたものに由来します。微量の鉄分を含んでおり、壁に塗ったあと時間が経つにつれて酸化が進み、独特の沈んだ色調が現れてきます。派手さはないけれど、奥行きのある、侘び寂びを感じさせるような深い風合い。そして表面のきめの細かさも、ほかの土では出しにくい品のある質感です。


最高位の座敷や茶室の上塗りに使われてきた土であり、京都の寺院建築を語るうえで欠かせない存在です。



・五線壁を可能にする浅黄土(あさぎつち)の精度

西本願寺の築地塀を見ると、壁面に五本の白い水平線(定規筋)が引かれていることに気づきます。これは「五線壁(ごせんかべ)」と呼ばれる意匠で、定規筋の本数は格式を示しており、五本は最高位とされています。西本願寺の築地塀にも、この五本の定規筋が確認できます。


何十メートルにも及ぶ壁面に、まっすぐな線を引く。言葉にすると単純に聞こえますが、相手は土です。乾けばひび割れ、湿れば膨らみ、収縮もする。そんな自然素材で直線を長期間にわたって破綻なく維持するには、左官職人の技術はもちろんですが、ベースとなる土そのものの性質が決定的に重要になります。


こうした直線的な意匠に適しているのが「浅黄土(あさぎつち)」です。不純物が少なく、乾燥時の収縮率が極めて安定した微細な粒子を持ち、収縮応力が低いため、幾何学的な直線の意匠が長い年月を経ても崩れにくい。見た目の優雅さの裏側には、土の物性を見極める材料選定の技術が隠れています。



・部位ごとに異なる土の使い分け

本聚楽土や浅黄土だけではありません。京都の歴史的な寺院建築では、ほかにもさまざまな土が使われてきました。


たとえば「稲荷山黄土」は、京都の伏見稲荷周辺に由来する黄土で、通常の黄土よりもやや赤みを帯びた発色を持ちます。空間に温かみと重厚感を同時に与える、最高級の黄土色を表現するための土です。


また「京錆土」や「白土」「中塗土」は、壁の下地や中塗り、仕上げといった各層の役割に応じて、粘性や骨材(砂)のバランスが細かく調整された基幹材料です。


つまり、一枚の壁に見えるその裏側には、何層もの異なる材料が、役割を分担しながら重ねられている。寺院の壁は、いわば「土のチームワーク」で成り立っているのです。


ここまで見てきたように、京都の歴史的な寺院建築には極めて精密に選ばれた土が使われてきました。では、なぜ近代的な工業製品ではなく、1300年前から変わらない「土」が今なお使い続けられているのでしょうか。


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■近代材料ではなく「土壁」が使われた理由

コンクリートや石膏ボードなど、現代にはさまざまな建材があります。それでも、西本願寺のような歴史的建造物では土壁が選ばれ続けています。その理由は、土壁という素材そのものが持つ独自の強みにあります。



・どの性能も一番ではないが、すべてを兼ね備えている

左官職人の間には、古くから語り継がれてきた言葉があります。


「土は一番ではないが、万能だ」


これはどういう意味かというと、たとえば耐震性だけなら鉄筋のほうが強い。断熱性だけならグラスウールのほうが優れている。防火性だけなら石膏ボードのほうが手軽かもしれない。個別の性能で比べれば、土壁はどの項目でもトップではありません。


しかし、耐震・耐火・調湿・蓄熱・防音といったあらゆる環境機能を、一つの素材で、しかも高い次元でバランスよく兼ね備えているのは土壁だけです。


近代建築では、用途ごとに専用の工業製品を何層も重ねて壁を構成します。それに対して土壁は、たった一つの素材でそのすべてをまかなえる。高温多湿な日本の気候のなかでは、特定の性能に特化した素材よりも、あらゆる条件にバランスよく対応できる「万能選手」のほうが、実は総合的な適合度が高いのです。



・壊しても捨てない――循環する建築素材

土壁のもう一つの大きな特徴は、壊しても無駄にならないということです。


古くなった壁土は、廃棄されるのではなく、回収して水を加え、新たなスサ(藁の繊維)を練り込むことで、再び壁の材料として生まれ変わることができます。製造時のCO2排出量も極めて少なく、役目を終えたあとも捨てる場所を選びません。


この「壊して、材料を活かして、また塗り直す」というサイクルが、実際に巨大なスケールで行われたのが、西本願寺御影堂の「平成の大修復」でした。


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■西本願寺御影堂「平成の大修復」で見えた左官の真価

1999年から2009年にかけて、西本願寺の御影堂で約10年の歳月をかけた大規模な修復工事が行われました。国宝建造物の修復としても異例の長期プロジェクトであり、その全過程が映像として記録に残されています。



・10年がかりで行われた修復の全貌

この大修復では、最先端の分析技術や各種強度確認試験を用いて、数百年の間に蓄積された建物の歪みや木材の腐朽、土壁の劣化状況が詳細に調べられました。


しかし、実際の施工に入ると、先人たちが遺した伝統的な手法が極めて厳格に踏襲されます。


なかでも象徴的なのが、壁土の扱いです。古くなった荒壁土は廃棄されるのではなく、丁寧に回収されました。そこに水を加え、新たなスサを練り込み、新しい土と配合することで、再び壁の材料として蘇らせる。数百年前に塗られた土が、現代の職人の手でもう一度壁になるのです。


分析には最先端の技術を使い、施工には数百年の実績を持つ手仕事を適用する。過去と現代が一つの現場で融合するこのアプローチは、文化財修復の基本的な考え方でもあります。



・見えなくなる場所にこそ、職人の仕事が宿る

この大修復の過程で明らかになったことの一つに、普段は決して目にできない場所にも丁寧な仕事が施されているということがありました。


屋根裏の構造。壁の内部にある小舞竹(こまいたけ)の編み方。下地塗りの段階で施された、仕上がりには直接関係しないように見える細やかな工夫。完成すれば誰の目にも触れない場所に、職人たちは手を抜かずに仕事を残していたのです。


左官の仕事は、完成した壁の表面だけで評価されるものではありません。見えなくなる部分にこそ、職人の仕事への向き合い方が現れます


そして、その「見えない仕事」は、数十年後、あるいは数百年後の次の修復のときに、壁を崩した職人の手によって再び発見されます。直接言葉を交わすことはないけれど、過去の職人が壁のなかに込めた工夫を、現代の職人が読み取る。修復とは、時間を超えた職人どうしの対話の場でもあるのです。


ここまで見てきたように、西本願寺の壁を支えているのは土と左官職人だけではありません。その背後には、材料・道具・技術をつなぐ広いネットワークが存在しています。




■まとめ:左官は歴史的建築を「生きた状態で」未来に届ける技術


西本願寺の壁は、最高峰の土材料、数百年単位の修復サイクル、そして分野を超えた職人のネットワークによって支えられています。


左官という仕事は、ただ壁を塗るだけではありません。約11万5千枚の瓦がのる大屋根の重さのなかで建物を支え、火から守り、空間の湿度を整え、そして数百年後の次の職人へ技術を渡す。日本の歴史的建築を「生きた状態で」未来に届けるための技術が、左官なのです。


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■未経験から左官職人になれるワイズファクトリーとは?

株式会社ワイズファクトリーは、東京都調布市を拠点に一般左官から特殊左官まで幅広く手がけている会社です。土壁・漆喰・珪藻土・洗出し・版築といった伝統左官にも対応しており、戸建て住宅からお寺、店舗まで対応物件も広いのが特徴です。


未経験からの採用にも力を入れており、代表自身が東京都認定の職業訓練校「東左育」の現役講師を務めています。仕上げ未経験の状態から全国左官技能競技大会3位へ導いた指導実績もあり、「見て盗め」ではなく体系的に基礎から学べる環境が整えているのも弊社の魅力。通学期間中も給与は全額支給されるため、学びながら着実にプロへの土台を築ける会社です。


左官の仕事に興味はあるけれど、まだ知識が曖昧で不安という段階でもまったく問題ありません。「やってみたいかも」と思えたなら、まずは仕事の雰囲気やキャリアの流れを確認するところから始めてみてください。


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